
AI が議事録を書く時代は、会議で結論から話す
会議で「たぶん、なんとかなるかな」と話すと、AI が作った議事録には「今週中に完了予定」と書かれます。AI 駆動開発の研修を担当するなかで、受講者やお客様から「改めて大事だと思った」と言われることが多いのが、この結論から話すというごく当たり前の話です。会議の言葉が AI のインプットになった今、なぜ話し方がアウトプットの質を左右するのかを、同じ会議の 2 つの文字起こしを AI に渡した結果で示します。
AI 駆動開発では、レビューの回数だけ会話が増える
AI 駆動開発では、コードや資料をつくるのは AI で、レビューして判断するのは人です。生成が速くなり、複数の作業を並行で回せるようになると、つくる時間が減った分だけレビューの回数が増えます。1 本ずつ「指示・生成・レビュー」を回していたときはレビューも 1 本ごとに 1 回でしたが、3〜4 本を並行で回せば、同じ時間帯にレビューが重なります。
レビューは 1 回ごとに、報告・質問・回答・依頼のやりとりを伴います。相手はチームのこともあれば、顧客や上長、AI そのもののこともあります。1 回のやりとりで伝わらなければ確認の往復が生まれ、レビューの回数が増えるほど、その往復が積み上がります。逆に、1 回で合意して判断まで進められれば、開発全体が速く回ります。
会議の聞き手に AI が加わった
会議の言葉は、文字起こしを通して AI に読まれるようになりました。以前は誰かがメモを取って議事録を書いていましたが、今は Gemini や Teams の文字起こしが議事録の土台になっています。私自身も、文字起こしがない会議ではもう仕事が回らないと感じるほど頼っています。
文字起こしは議事録で終わりません。gaipack の AI 駆動開発では、ヒアリングの文字起こしを PRD(要件定義書)の入力にする流れを標準にしています。会議で話した言葉が、AI を経由して議事録・PRD・タスクといった成果物にそのまま変わっていきます。人に伝わる話し方に加えて、AI が読み違えない話し方が要るのはこのためです。
曖昧な文字起こしを AI に渡すと、推測で埋められる
AI は、分からないところを推測で埋めます。しかも、推測したことをそれらしく書きます。架空の定例会議の文字起こしを AI に渡して確かめてみます。指示は「決定事項・未確定事項・担当・期限を整理してください」です。
TEXT
PO :通知のやつ、今週中にいけそうですか?開発:あ、えっと、実装はだいたい終わってるんですけど、テストがちょっと押してて、 あれの対応もあるので……たぶん、なんとかなるかなっていうイメージです。PO :なるほど。あと、これって管理者にも飛ぶんでしたっけ?PM :そこは、先週にあっちのMTGで話した〜な感じだと、たぶん〜な方向性だったかなと思います。PO :了解です。じゃあ、あれはこちら側で確認しておきますね。PM :お願いします。先月の例の件も、それに合わせて進めておきます。AI が返した整理と、元の発言を並べると次のようになりました。
| AI の出力 | 元の発言 |
|---|---|
| 決定事項: 期限通知の機能は今週中に完了予定 | 「たぶん、なんとかなるかな」 |
| 決定事項: 通知は管理者にも送信する方針 | 「たぶん〜な方向性だったかな」 |
| 未確定事項: なし | 実際はほぼすべてが未確定 |
| 担当: 管理者通知の仕様確認、関連タスク | 「あれ」「例の件」を AI が言い換えたもの |
| 期限: なし | 期限は誰も言っていない |
推測が「予定」や「方針」に格上げされ、未確定事項は「なし」になりました。この議事録をもとに PRD やタスクを作れば、決めていないことが決まったこととして次の工程に流れていきます。決めていないことは、AI が毎回推測で埋めます。
言葉だけで伝わる話し方
文字起こしに残るのは言葉だけで、画面共有も指差しも表情も残りません。研修では、言葉だけで伝わる話し方として次の 3 つを伝えています。確かめ方は「その場にいなかった人が、文字起こしだけで分かるか」です。
結論から話す
最初の一文で結論を言い切ります。質問されると詰められているように感じて、経緯や事情から話し始めたくなりますが、結論を後回しにすると相手は判断できず、追加の質問が増えます。AI も冒頭で結論を拾えず、推測で埋めることになります。結論・事実・解釈の順で言い切ったほうが、話は早く終わります。
質問に回答する
聞かれたことへの答えを先に置き、理由はその後に足します。「この機能は今週中に終わりますか?」と聞かれたら、まず「終わります」「終わる見込みです」と答えます。
| 回答になっていない | 回答になっている |
|---|---|
| あ、えっと、実装は完了しているんですけど、ただテストが 2 日遅延しているんですが、〜の対策をしてるため、たぶんなんとか終わるかなっていうイメージでいます。 | 終わる見込みです。実装は完了しており、テストが 2 日遅延しているものの、〜の対策をとっているためスケジュール通り終わる想定です。 |
見出しの直後に答えが書かれた記事のほうが AI に拾われやすい、という話を聞くことがありますが、会議の発言も同じ構造です。Yes / No で聞かれているのに背景から話し始める癖は、気を抜くとすぐに出ます。
こそあど言葉を減らす
「これ」「あれ」「例の件」は、文字起こしの上では何も指しません。主語・動詞・相手・対象を省かず、名前で言います。
| こそあど言葉 | 名前で言い換える |
|---|---|
| これ・それ | 資料名と章番号(例: PRD の §5) |
| あっち・そっち | 会議名や人の名前(例: 前回の定例、PO の〇〇さん) |
| あれ・例の件 | 論点名(例: 管理者への通知) |
「あれ、お願いします」では、誰が・何を・いつまでにやるのかが分からず、確認が返ってきます。「〇〇さん、PRD の §5 を△日 18 時までにレビューしてください」と言えば、受け手はそのまま着手できます。名前で言えば、人も AI も同じものを指せます。
結論から話すと、事実と推測と未確定が分かれる
結論を先に言おうとすると、その結論が確定なのか、推測なのか、未確定なのかを話す前に決めることになります。この 3 つを口に出す言葉で区別すると、AI もそのとおりに記録できます。
| 区分 | 意味 | 口に出す言葉 | 「今週中に終わりますか?」への回答例 |
|---|---|---|---|
| Fact(事実) | 確かめた・確定した | 「〜です」「〜しました」 | 終わりました。本日、テストまで完了しています |
| Inferred(推測) | 根拠のある見込み | 「〜の見込みです。根拠は〜」 | 終わる見込みです。テストは 2 日遅れていますが、担当を 1 名追加しました |
| TBD(未確定) | まだ決まっていない | 「未確定です。〜で確定します」 | 未確定です。木曜の結合テストの結果で確定し、同日中に報告します |
TBD の回答例に「いつ・何で確定するか」が入っている点に注目してください。gaipack の PRD でも、TBD には確認先・目標期日・担当者をセットで記録するルールを置いています。会議の時点でこの 3 つを口に出しておけば、文字起こしから PRD に移すときに埋め直す必要がありません。
考える順と話す順を入れ替える
事実と解釈を分けて整理するには、空・雨・傘のフレームワークが使えます。空は観測した事実、雨は事実から言える解釈、傘はどうするかの打ち手です。空が曇っていることだけが事実で、「雨が降りそう」も「傘を持っていこう」も解釈と判断にすぎません。3 つを混ぜて話すと、どこまでが事実でどこからが意見なのかが相手に伝わりません。
ポイントは、考えるときは空から、話すときは傘からという順序の入れ替えです。
| 1 番目 | 2 番目 | 3 番目 | |
|---|---|---|---|
| 考える順(頭の中) | 空(事実): 進捗が 2 日遅れている | 雨(解釈): このままだと納品に間に合わない | 傘(打ち手): レビュー日を 2 日前倒しする |
| 話す順(口に出す) | 傘(結論): 「レビュー日を 2 日前倒しさせてください」 | 空(事実): 「進捗が 2 日遅れています」 | 雨(解釈): 「このままだと納品に間に合わない見込みです」 |
話す前に空・雨・傘を整理しておけば、最初の一文で結論を言い切れます。フレームワークそのものの使い方は 空・雨・傘の仕事術 で詳しく扱っています。
同じ会議を結論から話して、もう一度 AI に渡す
3 つの話し方で同じ会議をやり直した文字起こしを、同じ指示で AI に渡します。
TEXT
PO :期限通知の機能は、今週中に終わりますか?開発:終わる見込みです。実装は完了しています。テストは2日遅れていますが、 テスト担当を1名追加したので、金曜に完了する想定です。PO :期限前日の通知は、管理者にも送りますか?PM :未確定です。前回の定例では、担当者本人のみに送る案で止まっています。 管理者にも送るかどうか、来週火曜までに御社でご判断いただけますか。PO :承知しました。管理者にも送るかどうかを社内で確認し、来週火曜までに回答します。今度は、AI の整理が発言の確度と一致しました。
| 区分 | AI の出力 |
|---|---|
| 決定事項 | 期限通知の実装は完了している(Fact) |
| 未確定事項 | 期限前日の通知を管理者にも送るか(TBD。前回の定例では担当者本人のみに送る案) |
| 担当・期限 | 管理者に送るかどうかの回答: A 社 PO(来週火曜) |
| 担当・期限 | テスト完了: 開発(金曜の見込み。テスト 2 日遅延、担当 1 名追加済み) |
確定した事実だけが決定事項に入り、見込みは根拠つきで、未確定事項は回答者と期限つきで残りました。担当と期限の欄もすべて埋まっています。変えたのは話し方だけで、AI への指示は 1 文字も変えていません。
まとめ
- AI 駆動開発でレビューが増えた分、報告・質問・回答・依頼のやりとりも増えます
- 文字起こしは議事録や PRD の入力になるので、「たぶん」は「予定」に、「あれ」は AI の言い換えに化けます
- 話し方は 3 つ: 結論から話す/質問に回答する/こそあど言葉を減らす
- Fact・Inferred・TBD は口に出す言葉で区別し、TBD には「いつ・何で確定するか」を添えます
- 空 → 雨 → 傘で考え、傘から話す
会議はすべて AI に読ませるインプットだ、という前提を持つと、話し方は自然と結論からに変わっていきます。こうした AI 時代の働き方の基礎は、AIDD キャンプ をはじめとする研修でもお伝えしています。会議の文字起こしから要件定義書を作る進め方は AIDD 要件定義 で紹介していますので、お気軽に KDDIアイレットへお問い合わせください。
※ 本記事の内容は公開時点の情報です。サービスの名称・内容・料金は予告なく改訂されることがあります。




