
AI 時代の「捨てる力」は、問いで 2 割を選ぶこと
AI に調べものを頼むと、比較表もレポートもすぐに届きます。ところが、届いたものを全部同じ重さで読んでいると、読み終えても肝心の質問に答えられません。情報の価値は 2 割の部分に偏っていて、その 2 割は読む前に立てた問いで決まります。 問いで 2 割を選び、図でその 2 割を見せ、選んだあとに確かめる。この順番で情報を絞る方法をまとめます。
表は見ていたのに答えられない
まず、AI に「主要な競合ツールを調べて比較しておいて」と頼んだら、次の比較表が返ってきたとします(中身は架空のデータです)。10 秒だけ眺めてみてください。
| ツール | 月額/人 | 無料期間 | サポート | 連携数 | 移行支援 | 日本語 UI | 容量 | 導入社数 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 1,980 円 | 14 日 | 平日 9-18 時 | 120 | あり | あり | 100GB | 3,200 社 |
| B | 1,200 円 | 30 日 | 平日 9-18 時 | 45 | なし | あり | 50GB | 800 社 |
| C | 2,400 円 | 14 日 | 24 時間 | 300 | あり | なし | 1TB | 12,000 社 |
| D | 1,500 円 | なし | 24 時間 | 80 | 有償 | あり | 200GB | 2,100 社 |
| E | 980 円 | 30 日 | メールのみ | 20 | なし | あり | 20GB | 450 社 |
| F | 3,200 円 | 14 日 | 24 時間 | 500 | あり | あり | 無制限 | 30,000 社 |
| G | 1,400 円 | なし | 平日 9-18 時 | 60 | 有償 | なし | 100GB | 1,500 社 |
| H | 2,100 円 | 30 日 | 24 時間 | 150 | あり | なし | 500GB | 5,400 社 |
| I | 1,100 円 | 14 日 | メールのみ | 35 | なし | あり | 50GB | 600 社 |
| J | 2,800 円 | 30 日 | 平日 9-18 時 | 220 | あり | あり | 1TB | 9,800 社 |
では質問です。月額 1,500 円以下で、サポートが 24 時間のツールはどれでしょうか。
眺めた直後にこう聞かれると、すぐには答えにくいはずです。表はちゃんと見ていたのに、どこを見ればよいかが決まっていなかったからです。
今度は、質問を先に知った状態で同じ表を見てください。見る列は「月額/人」と「サポート」の 2 列だけになり、答えが D だとすぐに分かります。表の中身は 1 文字も変わっていません。変わったのは、見る前に問いがあったかどうかだけです。8 列のうち 2 列、ちょうど 2 割を見れば答えが出ました。
実際の会議でも同じことが起きます。AI のリサーチ結果を全部読んだのに、「で、来期はどうするの」と聞かれて答えに詰まる。情報は足りていて、足りなかったのは、どこが効くのかを選ぶための問いです。
「捨てる」とは、効く 2 割を選ぶこと
この記事で言う「捨てる」は、情報をゴミ箱に入れることではありません。問いに効く 2 割を先に選び、その結果として残りの 8 割を外すことです。順番は「選ぶ」が先です。
| 均等に読む | 選んで読む | |
|---|---|---|
| 読み方 | 全部を同じ重さで読む | 問いに効く 2 割から読む |
| 時間の使い方 | 8 割の部分に時間の大半を使う | 残りの 8 割はざっと見るか外す |
| 読み終えたとき | 要点が言えない | 何を選び、何を外したかを言える |
外したものについて理由を言えるかどうかが分かれ目です。「今回の判断には関係ないので参考にしていません」と言えるなら、それは自分で選んだ結果です。理由を言えないなら、ただの読み飛ばしです。
ただし、実際の仕事では誰も問いを渡してくれません。先ほどの体験では質問を出題側が渡しましたが、普段は自分で問いを立てる必要があります。問いが決まっていないと、全部が同じくらい大事に見えて、全部読むしかなくなります。安宅和人さんの『イシューからはじめよ』は、答えを出すべき問いを先に見定めてから動くことを説いた本です。ここで扱うのは、その考え方を情報を選ぶ場面に当てはめた話だと捉えてください。
情報の 2 割が、8 割を決める
なぜ 2 割に絞ってよいのかは、80:20 の法則で説明できます。
成果の 8 割は 2 割の要素から生まれる
イタリアの経済学者パレートは、富の多くが一部の人に集中していることを観察しました。この観察をもとに、品質管理の専門家ジュランが「重要な少数(vital few)」として広めた経験則が 80:20 の法則です。売上の 8 割は 2 割の顧客から、不具合の 8 割は 2 割の原因から、という形でよく引かれます。
自然法則ではなく経験則なので、比率は目安です。それでも、結果の大部分がごく一部の要素から生まれる偏りは、さまざまな場面で見られます。レポートの価値も、2 割の記述に偏っていることが多くあります。先ほどの比較表で、8 列のうち 2 列で答えが出たのも同じ偏りです。
2 割の中に、また 2 割がある
80:20 の法則には、入れ子になっているという面白い性質があります。
ブロッコリーを思い浮かべてください。全体から 1 房を取り出すと、小さなブロッコリーの形をしています。そこからさらに小房を取り出しても、やはり同じ形です。このように、部分を拡大するとまた全体と同じ形が現れる構造をフラクタルと呼びます。海岸線や木の枝、雪の結晶にも見られる構造です。
80:20 もこの形をしています。マトリョーシカ人形にたとえると、開けるたびに 2 割の人形が出てきて、それぞれが手前の人形の価値の 8 割を持っている、という関係です。
| 段 | 全体に対する量 | 全体に対する価値 |
|---|---|---|
| 全体 | 100% | 100% |
| 1 段目 | 20% | 80% |
| 2 段目 | 4% | 64% |
| 3 段目 | 0.8% | 約 51% |
どの段でも 80:20 が成り立つと仮定した計算上の目安で、実際の比率にはばらつきがあります。それでも考え方としては使えます。1 万字のレポートなら、まず 2,000 字に価値の 8 割があり、さらに絞った 400 字ほどに核心が詰まっているかもしれません。要件定義書や設計書の確認を頼まれたときも、全部を同じ重さで読まなくてよいと考えるだけで、読み方が変わります。
2 割に絞ると、見えなくなるものもある
一方で、2 割に絞ることには危ない面もあります。
よく知られているのが「見えないゴリラ」の実験です(Simons & Chabris, 1999, Perception)。白い服のチームと黒い服のチームがバスケットボールのパスを回す動画を見せ、白チームのパスの回数を数えてもらいます。動画の途中でゴリラの着ぐるみを着た人が画面を横切るのですが、数えることに集中した人の約半数は、ゴリラに気づきませんでした。
白チームのパスを数えるという問いに集中すると、黒チームやゴリラは自然と外されます。
| 内容 | |
|---|---|
| 効く面 | 問いに効く 2 割に、注意を集中できる |
| 危ない面 | 外した 8 割にある大事なものも、見えなくなる |
仕事に置き換えると、ツールの月額コストの比較に集中しすぎて、今の契約があと 2 年残っているという事実を見落とす、といったことが起きます。だから、選んだあとに確かめる一手間が必要です。具体的な確かめ方は後半で紹介します。
選んだ 2 割を、図にして見せる
選んだ 2 割を人に見せる道具が図解です。図解は、2 割だけを描く技術だと言い換えられます。
| 文章 | 図解 | |
|---|---|---|
| 並び方 | 全部が一列に、同じ太さで並ぶ | 2 割の要素と関係だけが残る |
| 量 | 2 割も 8 割も、同じ文字の大きさ | 四角は 3〜5 個、線は数本だけ |
| どこが効くか | 読み手が探す | 形で見える |
| 書くとき | 選ばなくても書けてしまう | 選ばないと描けない |
文章は、何も選ばなくても書けてしまいます。図は、どの要素を四角にし、どこに線を引き、矢印を片方向にするか両方向にするかを選ばないと描けません。図にできたことは、2 割を選べた証拠です。逆に描けなかったところは、まだ 2 割を選べていないところです。描かなかったものが、外した 8 割にあたります。
図解も入れ子で描けます。まず章と章の関係を要素 3〜5 個で描いた全体の図を作り、次に効く章の 2 割だけを同じ形で描き、さらにその 2 割へ進むと核心の図になります。どの階層でも描くのはその階層の 2 割です。2 回ズームすれば、量にして 4% で価値の 64% に届く計算です。
2 割を選ぶ手順
ここからは、読む前に問いを立て、選んだあとに確かめる手順を順に見ます。
読む前に、自分に問う
長い資料を開く前に、次の 3 つを自分に問います。
- 何を決めるための情報か。 決めたいことを一文で書きます。「来期、今のツールを乗り換えるか」「この見積もりで提案するか」のように、1 つのテーマに絞ります
- 何が分かれば決められるか。 判断の軸を 3 つまでに絞ります。4 つ以上あると、全部が大事に見えてきます
- 違ったら困る前提は何か。 今の契約がいつ切れるのか、予算はいくらか、誰が決裁するのか。この前提が覆ると、軸を決めていても結論がまったく別のものになるので、ここだけは根拠まで確かめます
たとえば異動や担当替えで、引き継ぎ資料を 10 本まとめて渡されたとします。最初の 1 か月で決めなければならないことは何かを先に確認しておけば、まず読むべき 2 本を選べます。
3 つのふるいで、2 割を残す
問いを立てたら、手元の情報を次のふるいにかけます。
| ふるい | 自分への問いかけ | NO なら |
|---|---|---|
| 関係 | それは、問いに関係あるか | 外す |
| 影響 | それを知ると、決定が変わるか | 外す |
| 根拠 | 出典や根拠を、確かめられるか | 保留して、確かめる |
いちばん勇気がいるのは 1 つ目です。面白い情報でも、問いに関係ないなら横に置きます。「本当は見ないとまずいのでは」という不安に駆られますが、そこで全部を拾い直すと、また時間が溶けていきます。
基準はあくまで問いです。 自分の好みで残すと、見たいものだけを集める確証バイアスになります。迷ったら「問いに関係ないから外したのか、気に入らないから外したのか」と自分に聞いてみてください。
選んだ 2 割を、3 つの層で確かめる
2 割を選んだら、ゴリラを見落としていないかを確かめます。たとえば手元に「A 社のツールに乗り換えるべきです」という主張が残ったとします。主張そのものは AI に組み立ててもらってもかまいませんが、ここから下は自分で確かめます。
- 根拠: その主張を支えるデータや出典は何か
- 前提: どんな条件なら、その主張が成り立つのか
- 抜け: 外した 8 割に、問いに効くものが残っていないか
3 つ目の「抜け」が、ゴリラの実験への対策です。契約の残り期間のように、問いを立てた時点では見えていなかった事実を、外した側から拾い直します。
AI への頼み方に「外していいもの」を足す
同じ考え方は、AI への頼み方にもそのまま使えます。冒頭の比較表を作ったときの依頼は、次のようなものでした。
TEXT
主要な競合ツールを調べて、比較しておいて。この依頼には問いがありません。そのため AI は、集めた情報を全部同じ重さで並べて返してきます。そこで、2 割を選ぶ基準を依頼に足します。
TEXT
【決めたいこと】来期、今のツールを乗り換えるか【判断の軸】月額コスト・移行の工数・サポート体制【外していい】画面の好み・未発表の機能のうわさ【出力】3 社に絞り、軸ごとの関係を 1 枚の図にする【確認】この結論が崩れる前提を、1 つ挙げる足したのは、問いと「外していいもの」です。AI に頼むときは、やってほしいことを並べるのが普通ですが、やらなくていいことを先に渡すと、AI が集めてくる情報の側も 2 割に絞られます。出力を図で受け取るのは、AI が 2 割を選べているかをこちらが確かめるためです。最後の【確認】は、前の節の「前提」と「抜け」を AI にも手伝ってもらうための一行です。
AI に渡す前提や文脈の設計については、コンテキストエンジニアリングの解説や、「空気を読む」をプロンプトとコンテキストで解剖した記事もあわせて読むと、つながりが見えやすくなります。
これからできること
最後に、今日からすぐ試せることを挙げます。
- 長い情報を開く前に、「何を決めるため?」を一行書く。 メールでも資料でもかまいません。その一行が、どれを 2 割とするかの基準になります
- AI には「外していいもの」も一緒に渡す。 残すものだけでなく外すものを決めると、答えが締まります
- 選んだ 2 割を、閉じる前に 1 枚の図にする。 図にできなければ、まだ 2 割を選べていません
どの問いに答えるべきか、どれが自分にとっての 2 割かは、AI が決めてくれるものではありません。AI がいくらでも情報を集めてくれる今だからこそ、問いで 2 割を選び、図でその 2 割を見せ、選んだあとに確かめるという順番が効いてきます。まずはこの記事の中から 2 割だけを持ち帰って、残りは捨ててみてください。
※ 本記事の内容は公開時点の情報です。サービスの名称・内容・料金は予告なく改訂されることがあります。




